3月のおだいしさまのことば
古来、日本人の心の故郷ともいえる富士山は、崇高な景観の美によって人々を魅了してきました。特に湖面が鏡の役割となって姿を現わす「逆さ富士」は特別な魅力を帯びています。しかしながら、それは気象条件などの要因を達成して、はじめて得られる出会い難い現象と言えます。
ところで鏡とは興味深いもので、滑らかな平面による光の反射を利用して、様々な姿や形をありのままに映し出します。これに先人逹は道具としての一面のほか、宗教的な意義付を行いました。例えば社(やしろ)に祀られている鏡は神鏡(ご神体)と呼ばれ崇められており、また仏教においても鏡を用いた教えが散見されるなど、その様相は多岐にわたります。そのような中、お大師さまは「心を澄んだ鏡」になすべき旨を説かれました。その実現には「逆さ富士」が湖面に現れる時のように、様々な障害を克服できるよう我々の身心を正しく整える必要があります。
つまり三業と呼ばれる我々の日常的な活動・行為(業)を形成する身(身体)・口(言葉)・意(心)を、清らかにすることが肝要となります。この「清らかにする行為」として、自己中心的な考えや行動に陥らない、他人を自身であると考えて接するなど、日常の営みにも通じる具体的な仏道修練を挙げることができましょう。
この研鑚は意識的なものから始まりますが、継続することにより慣習として浸透していきます。そして自ずと無意識的な実践となって迷いの雲を払い、荒れた心の波であっても鎮めて、晴れやかで澄み渡った心を育みます。